ジュース・ワールドの死因と音楽界への影響【Juice WRLD,和訳、解説】

Rap Music

ジュース・ワールド(本名:ジャレッド・アンソニー・ヒギンズ)の急逝は、音楽界及びヒップホップ界に大きな衝撃を与えた。才能あるラッパーであり、若い世代に強烈な影響を与える存在。しかし、彼の死因は多くの疑問を呼び起こしています。公式には薬物の過剰摂取によるものとされていますが、その背後にはアーティストとしてのプレッシャーやメンタルヘルスの問題が潜んでいたとも言われている。

本記事では、ジュース・ワールドの死因についての真実を探求し、同時に音楽業界全体への警鐘としての意味を考察します。若い才能の喪失がもたらす影響と、この悲劇から学ぶべき教訓についても考えてみましょう。

ジュースワールドの絶頂と急逝

ジュース・ワールドは、幼少期から音楽に情熱を燃やしていた。ラップスキルと歌唱力、独自の音楽スタイルは、若い世代から瞬く間に注目を浴び、その才能は業界内外で高く評価されていた。

2018年にリリースされたデビューアルバム”Goodbye & Good Riddance”は、ジュース・ワールドにとって大きな転機となる。アルバムは全米チャートで成功を収め、特に”Lucid Dreams”や”All Girls Are the Same”といった楽曲は国内外で大ヒット。そのキャッチーなメロディと感情豊かな歌詞は、多くのリスナーに共感を呼び起こした。

“All Girls Are the Same”(2018年4月リリース)

“All Girls Are the Same”は、2018年2月にミュージックビデオが初公開された後、2018年4月13日にデビューアルバム”Goodbye & Good Riddance”からのリードシングルとしてリリースされた。恋愛の葛藤や別れについて歌っており、繊細な感情を率直に表現している。メロディアスなビートと彼の独特な歌声が特徴で、若いリスナーの共感を呼んだ。詞の内容は、恋人との関係の難しさを探求し、不安や苦悩が綴られている。

ジュース
ジュース

ジュースの過去の交際相手の女性たちがいかに彼を騙して失恋させたか、そしてその感情の混乱に対処するために酒を飲むといった内容となっている。

“Lucid Dreams”(2018年5月リリース)

“Lucid Dreams”は、ジュース・ワールドの代表曲の一曲であり、2018年のデビューアルバム”Goodbye & Good Riddance”に収録されている。この曲は、切ないメロディと感情的な歌詞が特徴で、失恋や心の葛藤をテーマにしています。恋人との別れを経験した後に感じる精神的苦痛を表現しており、若い世代に共感を呼び起こすことに成功した。

Billboard Hot 100チャートでは最高2位を獲得し、Juice WRLDの音楽キャリアを大きく後押しした。2022年2月には、全米で1,000万ユニット以上のセールスを記録し、RIAA(全米レコード協会)からダイアモンドに認定されている。

ジュース
ジュース

ルシッド・ドリーム(明晰夢)とは、夢の中で自分が夢を見ていることに気付く現象。夢の中で意識が目覚め、自由に夢を操ることが可能になる。
ジュース・ワールドは夢の中で元恋人に会う苦痛を避けるため、永久に元恋人と入れ替わろうとする。

“Robbery”(2019年2月リリース)

セカンドアルバム”Death Race for Love”からのリードシングルとしてリリースされた。この曲は、愛の喪失と心の痛みをテーマにしており、切ないメロディと彼の感情豊かな歌声が印象的である。歌詞は、関係の終わりと失われた愛についての感情を描写している。「ジュースの心を盗んだ女性」について歌われており、ジュースが酒を飲みながら彼女に復讐する様子が歌われている。

曲の中で彼は、高価な時計やデザイナーズ・ブランドの服でガールフレンドを誘惑し、関係をアルコール漬けの毒々しいものに変えようとする。彼は、元恋人が自分を狂気の状態に陥れ、一度彼女の愛から逃げ出した彼女に去って欲しくないと強調している。

圧巻のライブパフォーマンス

彼の音楽はジャンルを越えて多くの人々に支持され、ライブパフォーマンスでも熱狂的なファンを魅了しました。ジュース・ワールドは若干21歳でその才能を遺憾なく発揮し、音楽業界で確固たる地位を築いていた。

しかし、キャリアの絶頂期にして突然の死が訪れる。2019年12月、飛行機から降りる際に体調を崩し、病院に搬送されるもそのまま永眠。彼の早すぎる死は音楽界とファンに大きな喪失感をもたらした。

Juice WRLDの死因の背後にあるもの

ジュース・ワールドの急逝の背後には、複雑な問題が存在していた。死因は薬物の過剰摂取によるものと発表されている。この出来事は、若くして多大な成功を収めた彼の悲劇的な結末となりましたが、その背後にはさまざまな側面が絡んでいた。

2019年12月8日、ロサンゼルスのヴァン・ナイス空港からシカゴのミッドウェイ国際空港へ飛ぶプライベートジェットに搭乗。ジュース・ワールドの飛行機を操縦していたパイロットは、ジュースの仲間たちが銃を持ち込んでいることを地上の当局に警告していた。ミッドウェイ国際空港に着陸すると、FBI(連邦捜査局)とFAA(連邦航空局)の捜査官がジュース・ワールドを待ち構えており機内を捜索した。

ジュース・ワールドは捜査官が機内で荷物を捜索している間に、大量のパーコセット(鎮痛剤・解熱剤)の錠剤を飲み込んだ。関係者は、ジュースが薬を飲む行為を目撃しており、それが過剰摂取につながった可能性があると主張している。FBIは、機内で70ポンド(32kg)のマリファナを発見したことを明らかにした。

捜査官が荷物のカートを調べていたとき、ジュースは痙攣と発作を起こした。捜査官は、オピオイドの過剰摂取が疑われる場合の緊急処置であるナルカンを2回投与した。

ジュースが運び込まれたアドボケート・キリスト・メディカル・センター

ジュースは目を覚ましたものの支離滅裂な状態であった。救急隊員はオーク・ローンにあるアドボケート・キリスト・メディカル・センター(Advocate Christ Medical Center)にジュースを運んだが、シカゴに着陸してから約1時間後の午前3時14分に死亡が確認された。

ジュース・ワールドとの別れ

ホーリー・テンプル・カテドラル・チャーチ・オブ・ゴッド・イン・キリスト

2019年12月13日、ジュース・ワールド(本名:ジャレッド・アンソニー・ヒギンズ)の近親者や友人たちが、イリノイ州での葬儀で最後の敬意を表した。イリノイ州ハーヴェイにあるホーリー・テンプル・カテドラル・チャーチ・オブ・ゴッド・イン・キリスト(ジュースの地元シカゴから南へ約45分のところにある教会)で公開棺葬を行った。

ヤング・サグが投稿した葬儀プログラム

プログラムには、ジュース・ワールドのイメージ写真がデザインされていた。ジュースの母親カーメラ・ウォレス(Carmella Wallace)も息子に賛辞を送った。また、彼の兄弟と祖母も言葉を交わした。所属していたレコード・レーベルのインタースコープのスタッフや重役も数名が出席し、ジュースの友人でラッパー仲間のスキー・マスク・ザ・スランプ・ゴッド(Ski Mask the Slump God)、ヤング・サグ(Young Thug)も出席した。

母カーメラは「息子のストーリーが中毒と闘う人々の助けになることを願っている」と語った。彼女は、ファンからの惜しみない愛とサポートに感謝した。

仲間が明かした死の真相

ジュース・ワールドのフォトグラファーであるクリス・ロング(Chris Long)は、ジュースが亡くなった状況について振り返り、現場で何が起きていたのかを明かした。クリス・ロングは、ファンからの励ましのメッセージに感謝しながらも、まだジュースの死を受け入れるのが難しいとツイートした。しかし、たとえ苦しんではいても、ジェット機で起きたことの噂を止めるために自分の役割を果たすつもりだと説明した。

「ジュースが大量の薬を飲み込んだのは警察がいたからではない。俺達はそんなこと気にしていなかった。気にしていたなら、トイレに流せば済むことだった」

「ジュースは(薬物依存が)とにかく酷かった。彼が毎日摂取していた量はとんでもなかった。実際に摂取していた量はみんなに隠していた。彼の周りの誰もが、ペースを落としてもらおうと必死だった。彼がリハビリに同意したのは、薬物耐性を下げたかっただけで止めるつもりはなかった」

薬物耐性とは、薬物などの影響に対する体の反応が、長期間にわたって変化することを指します。例えば、薬物の摂取量が増えると、体がそれに慣れて反応が鈍くなることがあります。これを「薬物耐性」と呼びます。

「ジュースはその月(亡くなった2019年12月)にリハビリに行くことになっていた。俺たちは毎日、ダートバイクに乗ったり、ペイントボールをしたりと、薬を飲まずに忙しく過ごすためにポジティブなことをしようと必死だった。だけど、毎晩スタジオに入るとそれまでだった。彼はそれ(ドラッグ)を愛していた。

「彼がオーバードーズするとは思ってもみなかった。俺は常にヤバイ薬が入ることを恐れていたから、テストストリップを入手した。彼が手にする薬をテストしていたが、彼は隠し持っていたので、実際にどのくらいの量を飲んでいたのか分からなかった。ある時、マックスと俺は、彼がどれだけの量を持っていて、どれだけの速さで飲み干すのか、実際に数え始めた」

“Test strips”(テストストリップ)は、化学的な試験や分析を行うための小さな紙片またはストリップのことを指します。特定の物質や条件を検出するために使用され、液体や試料に触れさせて変化を観察することで結果を得ることができる。

重症化していた薬物乱用が若きラッパーの死に影響を及ぼした可能性も考えられます。ジュース・ワールドは公に薬物の使用について言及しており、楽曲にもその影響が反映されていた。

一方で、ジュース・ワールドの死にはアーティストとしてのプレッシャーやメンタルヘルスの問題も影響していた可能性があります。音楽業界の競争や常に注目を浴びる状況下で、アーティストは精神的な負担に直面することがあり、ジュース・ワールドもその一人である。

音楽界への警鐘

ジュース・ワールドの急逝は、音楽業界全体に深刻な影響を及ぼしました。アーティストとしての成功と人気を持ちながらも、彼の早すぎる死は、業界内の潜在的な問題や課題を浮き彫りにした。ラッパーのジョイナー・ルーカス(Joyner Lucas)は、薬物使用を美化するラッパー達にジュースの急逝について問題提起を投げかけた。

「ジュース・ワールドは21歳だった。彼は、薬物を美化しクールなものだと主張した俺達世代のラッパーによって生まれたんだ。このクソな現実はお前らに責任がある。リーンやドラッグのことを褒め称える連中だよ。お前らは子供たちにソレを教えてるんだよ。あり得ない。それでハッピーなのか?@JuiceWorlddd よ安らかに。あまりにも早すぎる」

ジュース・ワールドは生前、フューチャー(Future)の曲がリーンをするきっかけになったと語っていた。フューチャーの作品がいかにドラッグをするよう促したかを伝えたのだ。ジュース本人から話を聞いたフューチャーは深く後悔していた。

アーティストのメンタルヘルスを支援する重要性

アーティストのメンタルヘルスと健康をサポートすることは、音楽業界において極めて重要な課題である。ジュース・ワールドの死を通じて、メンタルヘルスを支援する必要性がますます浮き彫りになった。ジュース・ワールドは多くの楽曲でメンタルヘルスに関するテーマを取り上げており、その歌詞や音楽は彼の内面的な葛藤や感情を反映していた。

“Lucid Dreams”(2018年5月リリース)

この記事の前半でもご紹介した”Lucid Dreams”
この曲はジュースの代表作の1つであり、うつ病や別れによる心の痛みが描かれている。歌詞の中で、彼は過去の恋愛の終わりや夢の中で再び会うことを望む願望を表現している。

I take prescriptions to make me feel a-okay
俺は大丈夫だと感じるために処方薬を飲む
I know it’s all in my head
すべて俺の頭の中のことだって分かってる
I have these lucid dreams where I can’t move a thing
俺は明晰夢を見る、そこで俺は動けない
Thinking of you in my bed
ベッドの中で君を考える
You were my everything
君は俺のすべてだった
Thoughts of a wedding ring
結婚指輪のことも考えた
Now I’m just better off dead (Uh, uh, uh)
今となっちゃ俺は死んだほうがマシだ

Lucid Dreams“,Produced By Nick Mira,Written By Yellowcard, Sting, Dominic Miller, Taz Taylor, Nick Mira & Juice WRLD,Copyright ©Grade A Productions & Interscope Records,Release Date July 1, 2017,

“Hear Me Calling”(2019年5月リリース)

陽気でどこか物悲しいビートの上で、過去の失恋と新しい恋人について振り返っている。定番のエモ・ラップ・サウンドで、ジュースは新しい出会いや、それが彼にもたらす幸福と安心感、誰かに支えられることの大切さや、孤独感と戦うことについて語っている。

You drive me insane, no girl make me feel this way
君は俺を狂わせる、こんな気持ちにさせる女の子は他にいない
Wait girl, you got your ways, girl you are my getaway
待てよガール、君には君の道がある、君は僕にとっての逃げ場所だ
Wait, let me keep you safe
待って、君を守らせてくれ
In exchange, give me brain, brain
その代わり、頭をくれ(しゃぶってくれ)
You my main thing, turn around, bang bang
君は俺にとって全てさ、振り向いて、バンバン

“Hear Me Calling”,Produced By Purps,Written By George Dickinson, Purps & Juice WRLD,Copyright ©Grade A Productions & Interscope Records,Release Date March 1, 2019

ジュース・ワールドの死は、アーティストのメンタルヘルスへの配慮と、薬物乱用のリスクに対する警鐘であり、次世代のための改善への一歩としなければならない。

薬物依存からの脱却に向けて

ジュース・ワールドの死を通じて、音楽業界は変革を進めることで、アーティストたちの健康と幸福を最優先にする新たな未来を切り開く必要がある。ヒップホップ界にも薬物依存に苦しみ、克服した大物ラッパーが存在した。

ジュース・ワールドにとってのエミネム(Eminem)の存在

2018年10月5日(金)、ジュース・ワールドはティム・ウエストウッド(Tim Westwood)が主催するイギリスのラジオ番組”Tim Westwood TV”に出演。後に伝説と語り継がれる約1時間にわたる見事なフリースタイルセッションを披露した。ジュースは”The Way I Am”、”Til I Collapse”、”Just Lose It”、”Remember Me?”、”My Name Is”、”The Real Slim Shady”などエミネムの曲16種類のビートに乗せてラップした。

約1時間に及ぶラップの後、ジュース・ワールドがエミネムから受けた影響について語った。

「エミネムは俺の一部さ。彼の新作(Kamikaze)はあまり好きではないけど、昔の、、、アルバム”Relapse”(リラプス)とか彼の過去作は俺にとっての一部なんだ。エミネムの曲がなかったら今の自分は存在しないと思う」

Capital Xtra with radio host Tim Westwood in October of 2018

薬物依存症やメンタルヘルスの問題を抱えていたエミネム

エミネムは薬物依存症やアルコール依存症であったことを認めており、その経験に関する歌詞も多くの楽曲に含まれている。

エミネムは1999年にリリースされたアルバム”The Slim Shady LP”で大きな成功を収め、以降も多くのヒットアルバムをリリースしてる。しかし、成功と同時に、薬物やアルコールの問題に直面していた。特に、睡眠薬や鎮痛剤の使用が問題となっていた。

2004年11月12日にリリースされた4thアルバム”Encore”は薬物依存の影響が強く表現されたアルバムである。このアルバムは、ほとんどの批評家やファンから酷評され、3部門にノミネートされたにもかかわらず、グラミー賞を1つも獲得できなかった唯一のアルバムである。

2005年12月、エミネムはベストアルバム”Curtain Call: The Hits”、リードシングルの”When I’m Gone”をリリース。エミネムは、娘のヘイリーとの関係や、音楽活動の影響で家を空けることがヘイリーや家族、そして彼自身のメンタルにどのような影響を与えているかについて語った。エミネムはこの作品をリリースし一線から距離を置くことを選択した。

依存症を克服することを決意したエミネム

2007年12月、鎮痛薬メサドンの過剰摂取で緊急搬送された。搬送が2時間遅れていたら命を落としていたと語っている。この経験をきっかけに依存症からの脱却を決意しリハビリ施設に通った。

2009年5月、エミネムは見事に依存症を克服し、アルバム”Relapse”(リラプス)をリリースした。前作の”Encore”から実に4年が経過していた。

エミネムは現在も断酒、断薬を継続している。毎年4月20日に黒いコインの写真をSNSに投稿していた。そのコインには「一日ずつ」、「統一、奉仕、リカバリー」というメッセージが刻まれている。

ジュース
ジュース

2020年4月、エミネムは12年連続で断酒を継続している報告をSNSに投稿した。

エミネムとのコラボ

2020年1月17日、エミネムとジュース・ワールドの初共演曲”Godzilla”がリリースされた。彼らは自分たちをモンスター(ゴジラ)になぞらえている。この曲は、ジュースが2019年12月8日に亡くなった後にリリースされた初の遺作曲となった。

ジュースはこの曲のコーラスを命を落とす少し前に収録していた。しかし、残念ながらラップパートを完成させることができなかった。

ジュース・ワールドの死は、若い才能の喪失という痛ましい出来事であり、音楽業界に必要な変革の兆しをもたらした。アーティストのメンタルヘルスと健康へのサポートが業界の優先課題とし、ジュース・ワールドの死を通じて得た教訓を胸に、音楽業界全体が進化し、アーティストたちの持続的な成功と幸福を支えていくことが必要である。

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